川越スカラ座① 舟橋かずひろ支配人インタビュー

“小江戸”と呼ばれる街、川越。

川越旧市街の中心、時計塔のすぐそばに川越スカラ座がある。

度々姿を変えながらもこの映画館は多くの人に愛され、

何千もの映画を、人を見つめてきた。この映画館の”怪人”に取りつかれた支配人に話を伺った。

映画を観た後、その足でおもちゃ屋へ行って『トラック野郎』のプラモデルを買いましたね。


-まず、そもそもの舟橋さんと映画の関係について教えてください。


舟橋かずひろ支配人(以下、舟橋):こどもの頃からアニメとか特撮とか、映画は好きで観てましたね。その頃川越にあった映画館って、この川越スカラ座とホームラン劇場の2つだけだったんです。ホームラン劇場は“東映まんがまつり”とかどっちかっていうと邦画をやっていて、スカラ座は洋画をやっていたんですね。小学生の時は週末になるとスカラ座かホームラン劇場、どっちかに行っていた。それも小学校の友達と一緒に自転車で一緒に映画観に行くっていう。そういう思い出が強いですかね。


-洋画というと、小学生当時は字幕で観ていたんですか?


舟橋:そうですね。姉も映画が好きで、連れて行ってもらってたんです。ホームラン劇場の方はジャッキーチェンの映画をよくやっていて、それを観に行ったりしましたね。だからスカラ座はもうちょっと大人な映画をやってる印象があったかな。当時あった“ロードショー”とか“スクリーン”っていう雑誌を姉が毎月買ってて、それを読んだりしてました。映画の情報誌がいつも家に転がってたのでそれを見てるのは楽しかったですね。


-当時観ていた映画で印象的な映画はありますか。


舟橋:小学校3年生くらいの時かなぁ。鈴木則文監督の『トラック野郎』がホームラン劇場でかかっていて。ホームラン劇場ってすごく派手な劇場だったんですけど、トラック野郎シリーズの時に、映画に出てきた本物のトラックを映画館の前に展示したりしてました。

あと、昔って軽自動車で「今こういうの上映してます!」ってスピーカーつけて街じゅうを回ってたんですね。その軽自動車もトラック野郎仕様になっててすごくびっくりしました。映画を観た後、その足でおもちゃ屋へ行って『トラック野郎』のプラモデルを買いましたね。すごく強烈でした。


-衣装とかは聞きますけどトラックそのままってなかなか聞かないですね(笑)。


舟橋:川越って夏祭りが毎年あるんですけど、それに合わせたタイミングでトラックがあったんですよね。割とホームラン劇場はそういうことをやっていました。

中学になると地元より都内の映画館に行ってて、今はなき新宿ミラノ座に友達とみんなで『ロッキー4』を観に行ったりしました。ミラノって1000席くらいあるでかい映画館だったんですけど、長蛇の列でほぼ満席。友達とギリギリまで悩んだんですけど、意を決してちょっと高めの指定席券を買って観たっていうね。『ロッキー4』も単純な映画なんですけど中学生が観たら燃えるような映画じゃないですか。それでみんなで熱くなって西武線に乗って帰ってきた思い出はありますね。


川越スカラ座っていうとみんな何かしら思い出が残っている場所なので、どうにか継続していきたかった。


-川越スカラ座に関わることになった経緯は何でしたか?


舟橋:都内で働いてから川越に戻ってきたタイミングの時に、地元の同級生とかが川越スカラ座に関わっていたんです。その頃は元支配人の中山さんがまだお元気で、普通に映画館としてやっていました。その合間の時間や夜の時間を借りてレイトショーを組んだりして遊ばせてもらってました。それがNPO を作る前身のメンバーだったんですけど。


-その時にはもうご自身で上映プログラムを組んでいたんですか?


舟橋:それは割と後半の方になるんですけど、(中山さんが)上映選定をちょっと任せてくれたりして、それはすごく嬉しくかったですね。ビジネスが絡まない感じの上映選定だったので、本当に良いと思うものをかけたりして。お客さんが全然入らなかったりしたんですけど(笑)。


-ちなみにその時はどんな作品を?


舟橋:今でも覚えてるのは、黒木和雄監督の『紙屋悦子の青春』。中山さんに「これどうですか?」って言ったら、「ああいいね!」ってやってくれたんですけど、これがまたお客さんが入らなくて。ほんとに申し訳なかったなと思います。今はよくわかりますよね、苦労がね(笑)。


-そこから川越スカラ座にどんどん関わっていくという。


舟橋:そのメンバーでシンポジウムとかもここでやらせてもらったりして、中山さんも高齢になって来たんで引き継ぎみたいな流れになりました。NPOは当時まだ出始めの頃だったんですけど、資金が500万円くらい集まればちょっとは継続できるんじゃないかって話になって、それでNPOを申請してお金集めを始めるようになったんですね。


-川越スカラ座のためのNPOを立ち上げたということですか?


舟橋:地元の人たちの思い出のあるこの場所を維持したい、そういう場所を確保したいというのがありましたね。川越って観光客の方に年間700万人以上来ていただいてて、その当時も外からのお客さんは来ていたんだけど、じゃあ地元の人たちがゆっくりできる場所はあるのかな?みたいな。

その少し前にホームラン劇場が閉館しちゃうんですよ。川越の映画館が川越スカラ座だけになるって時だったんですね。だから川越の映画館の灯がなくなるっていう状況でもありました。街の風景が変わっていくのは当然かもしれないんですけど、「あれ?ここって何があったっけ?」っていう場面を今までずっと見てきて、特にこういう広い土地なんかは映画館があったとしても更地になって駐車場とかになっちゃう。それはもう見たくないっていうのが個人的にはありました。川越スカラ座っていうとみんな何かしら思い出が残っている場所なので、どうにか継続していきたかった。


-川越スカラ座が復活して10年以上の時間の中で多くの苦労があったと思います。


舟橋:僕は常駐ではなかったんですけど、やっぱりかける映画をどうすればいいのかっていうのは悩みました。いわゆるロードショーの映画はかけられないし、お客さんのリクエストをある程度参考にしてもお客さんが入らない時もある。これは今でもそうですけど、何が当たるかっていうのは本当にわからないし、良い作品が入るという訳でもなく、この作品がこんなに入るんだっていうことがあるんです。継続していくと傾向が出て来ますけど、最初は本当に闇雲なところはありましたね。


主婦の方々が手を挙げて、「すいません、これから夕飯作んなきゃいけないんで帰っていいですか。」って(笑)。


-今でも覚えているお客さんの姿や映画館の風景はありますか?


舟橋:個人的に印象に残ってるのは、是枝裕和監督の『歩いても 歩いても』をかけた時ですね。毎年新作をかけるたびに来ていただいてるんですけど、そのとき配給を通してお願いしたら是枝さんは二つ返事で引き受けてくれて。ただ、来ていただけたのが平日の夕方とかだったんですよ。でも蓋を開けて見たら、お客さんにたくさん来ていただいて、僕も是枝さんと一対一で対峙して、昔からファンだったのでお話しするのも緊張しました。Q&Aの時に主婦の方が手を挙げて、持ってるビニール袋に食材を入れてネギとかが出てて、何を質問するのかなと思ったら「冒頭の樹木希林さんが作ってる料理を私は食べたいと思いませんでした。」って(笑)。あの場面はちょっと怖さがあったとか独特な視点で語るわけですよ。もっとびっくりしたのは、トークが長くなってきて、そしたら主婦の方々が手を挙げて、「すいません、これから夕飯作んなきゃいけないんで帰っていいですか。」って(笑)。

それと、一番前でずっとむすっとしてるおじさんがいて、なんで機嫌悪い感じなのにずっといるのかなって思っていたら、そのおじさんがおもむろに手を挙げたんです。「自分もあの兄弟と同じような境遇だった。いつも兄弟で比較されてたんだ。」って。最後に「監督、あのラストシーンはいいですね。」って涙ぐみながら言ってて、思わず拍手してしまうような、いいトークショーでした。

それが印象に残ってたと思うんですよ、監督も。それ以来毎回来てくれて、最近は2時間半くらいトークしてくれますから。もう全部の質問に答えるみたいな。『歩いても 歩いても』の時の是枝監督のトークで、僕自身もやれるかなっていうのとお客さんとの一体感を掴めたなっていうところで印象に残ってますね。


-すごく豊かな時間ですね。川越スカラ座にいらっしゃるお客さんはたくさん質問したり感想を言う傾向にあるんでしょうか?


舟橋:そうですね。他の映画館の舞台挨拶とかで15分か20分で終わっちゃうこともあると思うんですけど、うちの場合は(劇場でトークをするということと)特別な親和性はあると思います。大林宣彦監督がいらっしゃる時も必ず2時間やっちゃうんで。大林さんの場合はだいたい大林さんが喋ってますけど(笑)。

でも、その後の質問もちゃんと答えてくれるし、監督さんもキャストさんもすごく喜んで帰っていただけるので、この古いしつらえの親和性っていうのはあるんじゃないですかね。特に作り手の監督さんってこどもの頃にこういう映画館で映画を観てきた人たちなので、ノスタルジーともリンクするのか、川越スカラ座ならではの雰囲気は感じてもらえていると思います。


-トークをしているのは壇上ではなく、客席前の空間でトークをするんですよね?観客席と地続きな感じですね。


舟橋:それはですね、壇上は建物が古いのであまり人が上に立つと壊れる可能性があるんですよ。


-そんな理由なんですか…!


舟橋:そういう切実な理由なんです。ほんとは前の空間にも4列席があったんですよ。でも僕らでここを引き受けた時に、前が狭いって4列取っちゃったんです。そしたら前の支配人はちょっとショック受けてたんですけど。でもそこの空間がイベントをやるにはちょうどいいスペースになったんです。


川越スカラ座の怪人みたいなのがいて、僕らはそれに動かされてるんじゃないか。


-劇場の中がいつも良い雰囲気なんですね。


舟橋:今常駐スタッフが3人いるんですけど、この3人がスカラ座の雰囲気を作っているところがありますね。彼女たちは現場にいるので、お客さんが来た時にいろんな話をするじゃないですか。そこでいろんなコミュニケーションがあって、常連さんも映画をただ観て帰るんじゃなくて何か話して帰りたい。そういうのをわかってるから、スカラ座の雰囲気みたいなもの、こういうまろやかな良い雰囲気に繋がってると思いますね。スカラ座の“表情”のような。


-普段から、お客さんの方から話すという雰囲気が作られている。


舟橋:そうですね。自然と皆さんの方から何か一言言って帰っていきます。「わからないのがわかる映画だった。」みたいな一言を行って帰ったり。だから彼女たちは常連さんの家族構成とかもみんなわかってるし、最近来てなかったら入院してるのかなって心配したりね。そういう関係がまさに地元と繋がってる特別な場所になってると思うんですよね。


-まちのコミュニティの一部になってるんですね。


舟橋:震災の時、このあたりは計画停電で電気が来なくなったんです。そこで今後やめるか続けるかみたい話になったんですけど、現場の子たちは、「映画を上映できなくても、スカラ座が開いてるだけで安心する人がいるんじゃないか。」と。それはもう現場にいるから出てくる声で、ある意味改めて勉強させられたようなところがありました。現場にいるからこそスカラ座の大切さを感じているんだなと思いましたね。


-話を聞いていると、様々な面でお客さんと独特な距離感を持っていると思いました。スカラ座の再開、DCPの導入、トイレの補修募金、今も継続して募金を募ってますけど、ちょっとした小物を見てもそれを感じます。この距離感っていうのは時間をかけて作り出していったものなんでしょうか。


舟橋:時間もあるんでしょうけど、この映画館の雰囲気がやっぱり特別なんじゃないかと思いますね。スタッフともたまに話すんですけど、川越スカラ座の怪人みたいなのがいて僕らはそれに動かされてるんじゃないかって。そんな気がする時があるんですよ。フィルム生産が終わってデジタルに移行する時も最初は2000万かかるって話で、無理だなと思っていたら500万ぐらいになって、これだったらっていうところでクラウドファンディングをしたらある程度お金が集まって導入できた。

下水管もね、もうびっくりしましたね。下水管がつまっちゃったんですけど、年末でお客さんに来てもらうためにいろんなイベントをやってたんですよ。お客さんも入って、これでやっと屋根を直す足しにできると思ったら下水が詰まっちゃったっていうね(笑)。それでダンボールで募金箱を作ってそれをスタッフがツイッターでアップしたらすぐに取材が来て、夕方のニュースになったり朝日新聞の埼玉版の記事に載って。その時また感動したのは、病院に入院してるおじいさんから現金書留が届いて、「まだやってると思いませんでした。」と。「今、自分はこういう体で映画館へ行けないけども足しにしてください。」って手紙とともに現金が送られてきたんです。2ヶ月ちょっとで補修できる金額が集まって朝日新聞も下水修理の目処みたいな第二弾の記事を書いてくれました。それが埼玉県の新年度予算よりでかい記事になってて、面白いなぁと思って(笑)。

続けたからこそ時間の積み重ねがわかるし、映画が好きな人、この場所が好きな人、また新しくこの場所を発見した人、いろんな人がいる。お客さんの中にあるスカラ座の思い出やつながりっていうのはあったかいですからね。


-最後に、2018年の8月で現在の川越スカラ座になって11年ですが、今後どういう場所にしたいというのはありますか?


舟橋:屋根の問題とか家賃の問題とか課題が山積みなので、とにかく継続することが一番ですかね。そこで見つかるものがあるので。おかげさまである程度知名度もあってお客さんも戻って来てくれましたし、とにかくお客さんに楽しんでいただいて、スタッフも楽しめるような空間作り、ワクワクできる雰囲気の映画館として継続していきたいですね。


川越スカラ座HP


text & photo & movie : 深田隆之

【écouter】-エクテ-

【écouter】-エクテ- とは、 フランス語で【聴く】という意味。 映画・あるいは映画館にまつわる様々な人たちの話を聴いてみたい。 そして紹介したい。 その先に、また新しい映画との出会いがあるはず。

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